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うたまろざんげ
歌麿懺悔
邦枝 完二
江戸名人伝
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,396 字 · 23 页
亀吉が頬冠りの下から、闇を透して見ている中を、まっしぐらに奥へ消えて行って歌麿は、やがて、それとおぼしい長屋の前で足を停めたが、間もなく内から雨戸をあけたのであろう。ほのかに差した明りの前に、仲蔵に似た歌麿の顔が、写し絵のように黄色く浮んだ。
「おや、何か御用ですかえ」
それは正しく、お近のお袋の声だった。
「ちっとばかり、お近さんに用ありさ。――まア御免よ」
ただそれだけいって、駐春亭の料理の笹折をぶら提げた歌麿の姿は、雨戸の中へ、にゅッと消えて行った。
「いけねえ。師匠はやっぱり慣れている。――」
茫然と見守っていた亀吉は、歌麿の姿が吸いこまれたのを見定めると、嫉妬まじりの舌打を頬冠りの中に残して、元来た縁生院の土塀の方へ引返した。
中へはいった歌麿は、如才なく、お袋に土産物を渡すが否や、いっぱしの馴染でもあるかのように、早くも三畳の間へ上り込んでしまったが、それでもさすがに気が差したのであろう、ふところから手拭を取出して、額ににじんだ汗を拭くと、立ったまま小声で訊ねた。
「お近さんは留守かい」
「いやだよ。そんな大きな眼をしてながら、よく御覧なね。