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せいぎ

正義

浜尾 四郎

「新青年」博文館、1930(昭和5)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 21,327 字 · 43 页

青空文庫

目をつぶって何か考えに耽りつつ衣川が云う。

「お互いに考えの相違は仕方がないとして、それならば僕ははっきりときき度い。君はA氏又は君自身が訴え出る事は全然不可能だというのかね」

「だから……だから其の点に就いて僕は迷って居るのです」

「清川、そんなら僕がもう一つきく。そんな不可能な事ならば何故君は僕の処へやって来たんだ。一体何の為にそんな事を云いに来たのだ。いっそはじめから黙って居てくれた方がどんなに僕は気が楽だったか知れないじゃないか」

衣川の言葉はむしろ怨ずるものの如くひびく。

「だから僕はあとで後悔しやしないかと云ったんです。然し何故僕が今日ここへ来たかその問に答えましょう。Aは最近になって事実を打明けたのです。僕は驚きました。そうしてどうしようかと思い悩んだのです。処が今日あなたがあの被告事件につき出廷するという事をききました。それで僕は早速法廷に行って始終のようすをきいて居たのです。僕はあなたの熱意に感激しました。罪なき人を救うためにあなたは全力を注いで居られる。あなたのやって居ることは正しい。尊敬すべきことです。ただその時僕は思った。あなたはほんとうに森木国松の無罪を確信して居るのかどうか、という事を。