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せいぎ

正義

浜尾 四郎

「新青年」博文館、1930(昭和5)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 21,327 字 · 43 页

青空文庫

凡ての事情はおそらくあなたと僕とを、永久に別れさせてしまうに違いありません。

衣川さん、昨日仮りにAといったのはあなたが察しておいでのように、僕自身ではないのです。しかし、僕の分身のような人間です。そうです僕と同じなのです。Aは実は僕の肉親の弟だったのです。肉親の弟清川弘の事なのです。

おろかにも僕は弟のおそろしい恋を最近まで知らずに居ました。大学を出たばかりの僕からはまだ子供のように思われる弟、弘がそのようなおそろしい恋をして居ることは全く知らなかったのです。

弘は、昨日申した通り、Eホテルで森木国松の事件をすっかり見て居たのでした。

不義の恋に対して天が如何なる方法を以て報いるか、人間のはかり知り得ることではありません。弘は、好奇心から見たあの事件の為に、あれ以来、一夜として安眠を得たことがないのです。

衣川さん、弘に良心がないと思うのは可哀相です。弘は丁度あなたの云われた通りの考えをもって居たのです。殊に法律を学んだ弟には、自分を犠牲にしても名乗って出ることが正しいと考えられたらしいのです。

けれども、一方彼はただれた恋に陥っていました。愛する女を犠牲にしなければならないという事が一番その決心をにぶらせたのです。