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むさしの

武蔵野

山田 美妙

「読売新聞」1887(明治20)年11~12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,798 字 · 26 页

青空文庫

そのほかはすべて雨ざらしで鳥や獣に食われるのだろう、手や足がちぎれていたり、また記標に取られたか、首さえもないのが多い。本当にこれらの人々にもなつかしい親もあろう、可愛らしい妻子もあろう、親しい交わりの友もあろう、身を任せた主君もあろう、それであッてこのありさま,刃の串につんざかれ、矢玉の雨に砕かれて異域の鬼となッてしまッた口惜しさはどれほどだろうか。死んでも誰にも祭られず……故郷では影膳をすえて待ッている人もあろうに……「ふる郷に今宵ばかりの命とも知らでや人のわれをまつらむ」……露の底の松虫もろとも空しく怨みに咽んでいる。それならそれが生きていた内は栄華をしていたか。なかなかそうばかりでもない世が戦国だものを。武士は例外だが。ただの百姓や商人など鋤鍬や帳面のほかはあまり手に取ッたこともないものが「サア軍だ」と駆り集められては親兄弟には涙の水杯で暇乞い。「しかたがない。これ、忰。死人の首でも取ッてごまかして功名しろ」と腰に弓を張る親父が水鼻を垂らして軍略を皆伝すれば、「あぶなかッたら人の後に隠れてなるたけ早く逃げるがいいよ」と兜の緒を緊めてくれる母親が涙を噛み交ぜて忠告する。