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むさしの

武蔵野

山田 美妙

「読売新聞」1887(明治20)年11~12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,798 字 · 26 页

青空文庫

すこしく問おうこともあれば」

畏まって下男は起って行くと、入り代って入って来たのは三十前後の武士だ。

「御目にかかるは今がはじめて。これは大内平太とて元は北畠の手の者じゃ。秩父刀禰とはかねてより陣中でしたしゅうした甲斐に、申し残されたことがあって……」

「申し残された」の一言が母の胸には釘であった。

「おおいかに新田の君は愛でとう鎌倉に入りなされたか」

「まだ、さては伝え聞きなさらぬか。堯寛にあざむかれなされて、あえなくも底の藻屑と……矢口で」

「それ、さらば実でおじゃるか。それ詐偽ではおじゃらぬか」

「何を……など詐偽でおじゃろうぞ」

よもやと思い固めたことが全く違ッてしまったことゆえ、今さら母も仰天したが、さすがにもはや新田のことよりは夫や聟の身の上が心配の種になッて来た。

「さてはその時に民部たちは」

「そのこと、まことそのことにおじゃるわ。おれがこれから鎌倉へ行こうぞと馳せ行いた途、武蔵野の中ほどで見れば秩父の刀禰たち二方は……」

「さて秩父たち二人は」

「はしなくも……」

「もどかわしや。いざ、いざ、いざ」

「はしなくも敵に探られて、そうじゃ、そのまま斫り斃されて……」