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むさしの

武蔵野

山田 美妙

「読売新聞」1887(明治20)年11~12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,798 字 · 26 页

青空文庫

「こわそぞろ、……斫り斃されて……発矢そのまま斫り斃されて……」

「その驚きは道理でおじゃる。おれも最初はそうとも知らず『何やらん草中に呻いておる者のあるは熊に噛まれた鹿じゃろうか』と行いて見たら、おどろいたわ、それがかの二方でおじゃッたわ」

母ははやその跡を聞いていられなくなッた。今まではしばらく堪えていたが、もはや包むに包みきれずたちまちそこへ泣き臥して、平太がいう物語を聞き入れる体もない。いかにも昨夜忍藻に教訓していたところなどはあっぱれ豪気なように見えたが、これとてその身は木でもなければ石でもない。今朝忍藻がいなくなッた心配の矢先へこの凶音が伝わッたのにはさすが心を乱されてしまッた。今はその口から愚痴ばかりが出立する。

「ちぇイ主を……主たちを……ああ忍藻が心苦しめたも、虫…虫が知らせたか。大聖威怒王も、ちぇイ日ごろの信心を……おのれ……こはこは平太の刀禰、などその時に馳せついて助…助太刀してはたもらんだぞ」

怨みがましく言いながら、なおすぐにその言葉の下から、いじらしい、手でさしまねいで涙を啜り、

「聞きなされ。ああ何の不運ぞや。夫や聟は死に果てたに……こや平太の刀禰、聞きなされ、むす…むすめの忍藻もまた……忍藻もまた平太の刀禰……忍藻はまた出たばかり……昨夜……察しなされよ、平太の刀禰」