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むさしの

武蔵野

山田 美妙

「読売新聞」1887(明治20)年11~12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,798 字 · 26 页

青空文庫

この体に旅人も首を傾けて見ていたが、やがて年を取ッた方がしずかに幕を取り上げて紋どころをよく見るとこれは実に間違いなく足利の物なので思わずも雀躍した,

「見なされ。これは足利の定紋じゃ。はて心地よいわ」と言われて若いのもうなずいて、

「そうじゃ。むごいありさまでおじゃるわ。あの先年の大合戦の跡でおじゃろうが、跡を取り収める人もなくて……」

「女々しいこと。何でおじゃる。思い出しても二方(新田義宗と義興)の御手並み、さぞな高氏づらも身戦いをしたろうぞ。あの石浜で追い詰められた時いとう見苦しくあッてじゃ」

「ほほ御主、その時の軍に出なされたか。耳よりな……語りなされよ」

「かたり申そうぞ。ただし物語に紛れて遅れては面目なかろう。翌日ごろはいずれも決めて鎌倉へいでましなさろうに……後れては……」

「それもそうじゃ,そうでおじゃる。さらば物語は後になされよ。とにかくこの敗軍の体を見ればいとど心も引き立つわ」

「引き立つわ、引き立つわ、糸のように引き立つわ。和主もこれから見参して毎度手柄をあらわしなされよ」

「これからはまた新田の力で宮方も勢いを増すでおじゃろ。楠や北畠が絶えたは惜しいが、また二方が世に秀れておじゃるから……」