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しのよこく
死の予告
野村 胡堂
「文芸倶楽部」1929(昭和4)年7月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 17,149 字 · 34 页
生命は瞬間に絶えると言った」
何んと言う、「足の勇」の頭のよさでしょう。私も伯爵も、あっけに取られて、その現場を見て居たような、素晴らしい仮説に傾聴してしまいました。
「ところで、人間が青酸を口の中に入れると、人間の五体を流れて居るヘモクロビン(血色素)がその酸素又は二酸化炭素を失って、青酸と結合し、忽ちチアン・モクロビンとなる。しかもこの変化は、実に瞬時に電光的に行われる、青酸中毒者は血色が鮮麗になるのはその為めだ。が、炭酸瓦斯中毒者の血液も酸素又は二酸化炭素を失って、一酸化炭素とヘモクロビンと結合するから、血色が鮮麗だ。青酸中毒を炭酸瓦斯中毒と間違えたのは無理もない事だが、もう少し早く気が付いて、死体の化学的検査をすると何も彼も解った筈だ、死体は火葬にしてしまったでしょうな」
伯爵が無言に頷くのを見て、「足の勇」は長大息しました。
「どうも仕方が無い――伯爵の代りに書生が死んだ。書生の手にある手紙の切手には、まだ青酸が残って居る。犯人はドサクサに紛れて死体から手紙をむしり取り、何処かへ要領よく隠してしまったのだろう。伯爵が切手を舐める習慣が無いとすれば、切手箱に青酸の付いた切手などの入れて置く必要は無い、直ぐ抽斗の中から全部の切手を抜いてしまって、人目につかぬ方法で焼くか捨てるかしてしまったのだろう。