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しのぜんご
死の前後
豊島 与志雄
「経済往来」1933(昭和8)年11月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 17,273 字 · 35 页
その前夜の様子を、島村の妻君はくわしく若い女中から聞いた。
島村の妻君は、病身なので、大抵九時頃には床につくのだったが、その晩は、島村も早く寝てしまった。その後に、おしげは帰ってきた。
奥は皆さんおやすみになったというのを聞いて、おしげは一本欠けてる歯並を見せて、にやりとした。その笑いが、変に凄みをおびて見えたが、すぐに、いつもの善良な笑顔に返って、風呂敷包を開いてみせた。きんとんや蓮や蝦や肴などの煮物の折詰と、酒の二合瓶がはいっていた。これまでに嘗てないことなので、女中がびっくりしていると、今日は特別にないしょだよとおしげは云って、笑っていた。その様子がまた嘗て見ないほど上機嫌だった。内心に何か感情の昂ぶりがあって、それが上機嫌となって発散してるかのようだった。その上、少し酒を飲んできているらしかった。彼女はいやに頭を小刻みに揺り動かしながら台所に立っていって、二合瓶をそのままお燗してきた。どうかすると銚子の底に残ってる酒を一二杯のむことはあったが、自分で酒を買ってきて内緒で飲むということは、まだ一度もなかったのである。
「これは、あの娘がくれたんです。