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ダンスマカブル

死の舞踏

野村 胡堂

「文芸倶楽部」1928(昭和3)年9月増刊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,576 字 · 21 页

青空文庫

すべての光景があまりに現実的で、神秘的な感じなどを容れる余地があろうとも覚えませんでしたが、その真ん中で現に、この世の中で行われた、一番怪奇な舞踏が演ぜられて居るのです。

「死の舞踏」の曲は、何遍も何遍もくり返されました。私はもう、指で叩かずに、拳骨と腕と、最後には身体でピアノを叩いて居たような気がしました。心気が氷の如く凝って、抗すべからざる力に引摺られて居る私の神経は、剃刀の刃のように慄えて居りました。やがて最後の飛躍のために、無茶苦茶な弾奏を私は強いられた事は知って居りますが、遂には、何んの曲を叩いて居るか、何をして居るかさえ解らなくなってしまいました。

踊り狂う佐良井の身体は、一パイに開いたフランス窓から、傷いた昆虫のように跳躍して、広いバルコニーの上へ出ました。そして現実そのもののように明るい、午後の陽の中に、暫らく魔の糸に操られる操り人形のように踊り狂いましたが、

欄干に上半身が仰向にかかると思うと、

「許せ」

と漸く一言。

佐良井の身体は、もんどり打って下へ、無間地獄へ堕ち行く怨鬼のように落ちて「死の舞踏」の最後の一弾を終った私は、そのままピアノの上へ失神してしまいました。