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ダンスマカブル
死の舞踏
野村 胡堂
「文芸倶楽部」1928(昭和3)年9月増刊
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,576 字 · 21 页
病気は多分時候あたりだろうと思うが、大した事ではない――云々)こんな事が、佐良井にしては珍らしく長々と書いてありました。
「妹へ楽譜などを貸した覚えは無いがね」
「お忘れになって在らっしゃるのかもわかりませんワ」
「物忘れは私のことだから保証の限りでないが、それにしても、ソナタ・アルバムから引き千切った譜を、たった二三枚封入するのは可怪しい――」
どうかしたら幽香子は、結婚生活を不愉快に思うのが嵩じて、気が変になったのでは無いかとも思いましたが、それならば鵜の目鷹の目で女房のアラを探して居る、夫の佐良井が黙って居る筈もありません。
「オヤ、待ってくれ、これは変だ――よ」
何んの気もなく楽譜を弄んで居ると、曲は一向珍らしくも何んともないものですが、所々に、赤鉛筆で印が付けてあるのが目につきます。
楽譜の心覚えや演奏上の注意やを書き入れるのは、誰でもやることですが、この赤鉛筆の印しはそんな種類のものではありません。
或特定の音符や記号などに、注意の為に鉤を描いたもので、表情記号などは、一綴りの文字の内から、一つの文字を選んで外のとまぎれないように、その傍へクッキリ赤い印が付いて居るのです。