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ししゃをわらう

死者を嗤う

菊池 寛

「中央文學」1918(大正7)年6月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 4,234 字 · 9 页

青空文庫

群衆に近づいて見ると、彼等は黙っているのではない。銘々に何か喚いているのである。

「そら! また見えた、橋桁に引っかかったよ。」と、欄杆に手を掛けて、自由に川中を俯瞰し得る御用聴らしい小僧が、自分の形勝の位置を誇るかのように、得意になって後方に押掛けている群衆に報告している。

「何ですか。」と啓吉は、自分の横に居合せた年増の女に訊いた。

「土左衛門ですよ。」と、その女はちょっと眉を顰めるようにして答えた。啓吉は、初めからその答を予期していたので、その答から、何等の感動をも受けなかった。水死人は社会的の現象としては、極くありふれた事である。新聞社に居る啓吉はよく、溺死人に関する通信が、反古同様に一瞥を与えられると、直ぐ屑籠に投ぜられるのを知っている。が実際死人が、自分と数間の、距離内にあると云う事は、全く別な感情であった。その上啓吉は、かなり物見高い男である。彼もまた死人を見たいと云う、人間に特有な奇妙な、好奇心に囚われてしまった。彼は幾何かの強力をもって、群衆の層の中へと、自分の身を割込ませて行ったのである。が、その群衆はかなりの密度を持っていて、容易には新来者を容れないのである。