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じゅんし
殉死
山本 周五郎
「キング」大日本雄辯會講談社、1943(昭和18)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,737 字 · 21 页
五
また三次は良質の木炭をだすので名があり、そのためとかく濫伐に傾いていた山々の植林、ついでは生糸、酒などという重だった産業の改良と指導にも手をつけたのである。そしてこれらの事業はすべて藩主長吉と主馬とのかたいむすびつきを土台とし、全藩のちからを集めてめざましく活動しはじめた。
五
三次の城中には発蒙閣という天象観測の建物があった。因幡守長治の建てたものであるが、近年ほとんど忘れられていたため、屋根も壁も朽ちて立ちぐされ同様になっていた、それをとり壊そうという話がでたとき、主馬ひとりが反対して云った。――農事を振興するには天象季候をよく案じなければならない、むしろ発蒙閣を増築し、天文家を招いて研究をさかんにすべきである。長吉がその説を採った、そしてすぐに発蒙閣の増改築がはじめられたのである。
その工事を起してから間もなくのことだった、主馬が現場へ来て、作業方の者と工事のようすを見まわっていると、下支配をしていた若侍たち四五人のなかまが、かなりこわだかに主馬の悪口を云うのが聞えた。「江戸そだちは利に賢いな、寵をうけた殿が御他界あそばしても、御禁令で痛い腹を切らずとも済んだし、そうなれば御恩も帳消しだという顔でうまく出世だ、この世をばわが世とぞ思うと云いたげではないか」