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じゅんし
殉死
山本 周五郎
「キング」大日本雄辯會講談社、1943(昭和18)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,737 字 · 21 页
しかし庄兵衛は鄭重に謝辞して受けなかった。――あっぱれな覚悟だ。――追腹を切る以上だ。家中の人々はそう噂をしあい、墓畔をおとずれては労をねぎらった。そういう反響が庄兵衛にとってどれほどのものであったろう、かれは迷惑がるようすさえもみせず、ただ黙々と眼を閉じているばかりだった。食事は日にいちど、それを運んで来る者があればたべるし、なければ幾日でも無しで済ませた、用に立つほかは膝を崩さず、また端坐したまま眠った。「追腹を切る以上だ」という評は、肉躰の艱苦をべつにしても不適当ではなかったのである。
弟が来た日の夜のことだった、雪の降っているときは思いのほか温かいもので、十時の鐘をきいてから間もなく庄兵衛はとろとろとまどろんだらしい、ふともののけはいで眼がさめたかれは、自分のすぐうしろにしずかな人の呼吸の音をききつけた。「……勝之丞か」こえをかけたけれど返辞はなかった、そのときからだへ雪がかからぬのに気づき、みるとうしろから傘がさしかけられてあった。庄兵衛はふりかえって見た。
若いむすめだった、たしかめるまでもなく葛木八郎左衛門のむすめ小松である。伏せたおもての濃い眉と、寒さにめげず艶々とゆたかな頬のあたりが、雪明りにくっきりと冴えてみえる。