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のこされたるえど

残されたる江戸

柴田 流星

在线阅读柴田 流星《残されたる江戸(のこされたるえど)》,假名注音日语阅读。JLPT N2,点词查义。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 41,677 字 · 80 页

青空文庫

都の夏を懼れて暑を山海の地に避くる人々の、かえって喧噪と雑沓と没趣味とに苦しめられて、しかもそれらに対して高価な支払をなしたを嘆つこと、吾儕の屡次耳にするところで、旁徒なる懼れに遠かれる都にも、夏にかかる逸楽のあるをお知らせしておきたい。

蒲焼と蜆汁

土用に入っての夏の食いものに、鰻と蜆とは江戸ッ児の真先に計えあげる一つで、つづいては泥鰌、浅蜊のたぐいである。

鰻は何よりも蒲焼を最とし、重箱、神田川、竹葉、丹波屋、大和田、伊豆屋、奴なぞ、それぞれの老舗を看板に江戸前を鼻にかけてはおるが、今でも真に旨いのを喰わせる店、山谷の重箱を第一に算うべく、火加減、蒸しのかけ具合、たれ醤油の塩梅など、ここのを口にしては他に足を向くる気にはなれない。

勿論、従来の江戸前といった鰻、今も大川尻から品川の海にかけて獲れはするが、紡績や、川蒸汽船の石炭殻を流しこむので、肉の味ゲッソリおちて、食通の口に適せず、妻沼、手賀沼あたりからのを随一とするに至っては、火加減、蒸し加減が何よりで、搗てたれ醤油の味いも元より大切だ。

彼のチリリと皮の縮れて、焼加減な大串中串を箸にした気持ち、早くも舌めが味いたがって、無遠慮に催促するもおかしい。