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ころされたてんいちぼう

殺された天一坊

浜尾 四郎

「改造」1929(昭和4)年10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,716 字 · 27 页

青空文庫

思えば私の父も不幸な人間です。その生みの子に直ぐ会うわけにも行かないのですから。けれど、若し父にほんとうにおぼえがあれば必ず会いたがって居るに違いありませぬ」

此の愚かな、けれど真直な天一坊の答えはあの男の為には運命を一時に決してしまったのでございました。あの男は不幸に生れ付きながら更に一番不幸な最後を、此の言葉が生み出す事を知らぬ程若かったのでございます。あの男はただ父親に会いたかったと申して居ります。それはそうに間違いございますまい。けれど御奉行様に致しますれば、それはただそれだけの意味にはならないのでございます。御奉行様は世の為に此の哀れな人の子を其の親に会わしてやることはお出来にならなかったのでございます。

お調べの果は、御奉行様の為にも、又天一坊の為にも余りに悲惨すぎて詳しく申し上げる言葉もございませぬ。御奉行様の御取り計らいで、天一坊は全く偽者なる事に定りましたのでございます。

「天下を欺す大かたりめ」之が御奉行様が最後に天一坊に仰言ったお言葉でございますが、いつもに似ず御声に慄えを帯びておいでになったそうでございます。

お邸にお帰り遊ばし、落葉散り敷く秋のお庭にお下り立ち遊ばした時の、御奉行様のお顔色は全く死人の色のようでございました。