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さつじんめいろ
殺人迷路
江戸川 乱歩
05 (連作探偵小説第五回)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,041 字 · 17 页
会ったことはないけれど、話だけは度々聞いていた。京子というのは数年以前星田と同棲していた彼の恋人ではなかったか。それが京子の方で星田にそむいて、別の恋人の所へ走ったということだ。星田は逃げられた女を思い切れないで、長い間悶えていた。悲しみ、恨み、憎み、罵っていた。後年その気持を小説にさえ書いている。文壇では誰知らぬものもない有名な事件なのだ。
「じゃ、なぜそうと云わなかったのだ。あれが京子さんと分れば、捜査の手数がグッと省ける訳だし、君としても別に隠すことはないじゃないか」
津村はいぶかしげに、セカセカと尋ねる。
「僕もそう思って、云おうとしていたんだ。ところが、丁度その時、あの眼鏡の玉を見せつけられたのでね」
「エ、なんだって? 眼鏡の玉が、それとどう関係があるんだ」
「あれは僕の眼鏡の玉に違いないのだよ。検べて見たら形も度もこれと全く同じだと思うよ」星田はそう云って、彼の鼻の上のロイド眼鏡を弄って見せた。「昨夜外出した時、片っ方の玉が、全く知らぬ間にはずれてなくなっていたのだ。で、僕は今朝自分で眼鏡屋へ行って、玉を入れさせている。……なんと恐ろしい証拠じゃないか」