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とのさまのちゃわん
殿さまの茶わん
小川 未明
「婦人公論」1921(大正10)年1月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 3,795 字 · 8 页
それがために出向いたのだ。」と、お役人は申されました。
陶器店の主人は、正直な男でありまして、恐れ入りました。
「できるだけ念に念を入れて造ります。まことにこの上の名誉はございませんしだいです。」といって、お礼を申しあげました。
役人は立ち帰りました。その後で、主人は店のもの全部を集めて、事のしだいを告げ、
「殿さまのお茶わんを造るように命ぜられるなんて、こんな名誉のことはない。おまえがたも精いっぱいに、これまでにない上等な品物を造ってくれなければならない。軽い、薄手のがいいとお役人さまも申されたが、陶器はそれがほんとうなんだ。」と、主人は、いろいろのことを注意しました。
それから幾日かかかって、殿さまのお茶わんができあがりました。また、いつかのお役人が、店頭へきました。
「殿さまの茶わんは、まだできないか。」と、役人はいいました。
「今日にも、持って上がろうと思っていたのでございます。たびたびお出かけを願って、まことに恐縮の至りにぞんじます。」と、主人はいいました。
「さだめし、軽く、薄手にできたであろう。」と、役人はいいました。
「これでございます。」と、主人は、役人にお目にかけました。