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とのさまのちゃわん
殿さまの茶わん
小川 未明
「婦人公論」1921(大正10)年1月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 3,795 字 · 8 页
「いや、そうでない。みんなが俺を強いものだと信じているので、こんなことは問題としないのだろう。」と思われたこともありました。
けれど、殿さまは、毎日お食事のときに茶わんをごらんになると、なんということなく、顔色が曇るのでごさいました。
あるとき、殿さまは山国を旅行なされました。その地方には、殿さまのお宿をするいい宿屋もありませんでしたから、百姓家にお泊まりなされました。
百姓は、お世辞のないかわりに、まことにしんせつでありました。殿さまはどんなにそれを心からお喜びなされたかしれません。いくらさしあげたいと思っても、山国の不便なところでありましたから、さしあげるものもありませんでしたけれど、殿さまは、百姓の真心をうれしく思われ、そして、みんなの食べるものを喜んでお食べになりました。
季節は、もう秋の末で寒うございましたから、熱いお汁が身体をあたためて、たいへんうもうございましたが、茶わんは厚いから、けっして手が焼けるようなことがありませんでした。
殿さまは、このとき、ご自分の生活をなんという煩わしいことかと思われました。いくら軽くたって、また薄手であったとて、茶わんにたいした変わりのあるはずがない。