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ははのじょうきょう
母の上京
「人間 第二巻第一号」1947(昭和22)年1月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 16,655 字 · 33 页
けれども、ほのかなふくらみに初々しさを残してゐた美しい顔も、近頃はやつれて、どうやら年増芸者のやうなけはしさがたち、それにつれて彼の心も蝕まれ無限にひろがる荒野の心がほの見えてゐる。それでもともかく彼の躾は崩れを見せず、危い均斉を保つてゐた。かうした不時の急場には、その荒れ果てた魂と正しい躾と妙な調和をかもしだして、五十がらみの老成した男のやうなたのもしさすら感じさせるのであつた。
然し、夏川は歩きかけてみて、その当てどなさに、辟易した。
「やつぱり、私は、ともかく、うちへ行かう」
「おや、里心がつきましたか」
「居所がつきとめられたうへは仕方がないさ。こつちの気持を母に打ちあけて、肚をきめるのはそれからさ」
と言つたが、母を見る切なさは堪へがたい。するとヒロシはぴつたりと身体をすりよせるやうにして、
「ナアさん」
その目にも顔にも身体つきにも奇妙な幼さがきはだつて籠つて見えたやうに思はれた。
「あたくしがお供してゐますもの、御不自由は致させません」
夏川は気がぬけるほど馬鹿らしかつた。淫売で露命をつないでゐるこの青年に御不自由は致させませんもないものだが、本人はそれを思ひこんでゐるのであるし、事実貧富暖寒の差に人の真実の幸不幸がないとすれば、堕ちつめて行く路の涯にこの青年の献身が拠りどころであり得ることも考へ