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ぼしじょじょう

母子叙情

岡本 かの子

「文学界」1937(昭和12)年3月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 77,355 字 · 153 页

青空文庫

赤い煉瓦造りの壁面を蔦蔓がたんねんに這い繁ってしまっている。棲家として一番落着きのある風情を感じさせるものは、イギリスの住宅建築だということを、規矩男の父親は、その外国生活時代に熟々感じたので、辺りの純日本風景にはそぐわないとも考えたが、そんな客観的の心配は切り捨てて、思い切り純英国式の棲家を造らせ、外国で使用した英国風の調度類を各室にあふれるように並べて、豊富で力強い気分を漂わせた。建築当初は武蔵野の田畑の青味に対照して、けばけばしく見え、それが却ってこの棲家を孤独な淋しい普請のようにも見させたが、武蔵野の土から生えた蔦が次第にくすみ行く赤煉瓦の壁を取り巻き、平地の草の色をこの棲家の上にも配色すると、大地に根を下ろした大巌のように一種の威容を見せて来た。

正面の石段を登ると、細いバンドのように閂のついた木扉が両方に開いて、前房は薄暗い。一方には二階の明るさを想わせる、やや急傾斜の階梯がかっちりと重々しく落着いた階段を見せている。錆びた朱いろの絨緞を敷きつめたところどころに、外国製らしい獣皮の剥製が置いてあり、石膏の女神像や銅像の武者像などが、規律よく並んでいる。