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ぼしじょじょう

母子叙情

岡本 かの子

「文学界」1937(昭和12)年3月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 77,355 字 · 153 页

青空文庫

西洋室の二方にはライブラリ型の棚があり、其処には和洋雑多な書籍が詰っていた。だが、机の上の山積の書物にも書架の書物にも、紗のような薄い布が掛けてあって、書物の題名は殆ど読み分けられなかった。かの女がやや無遠慮にその布を捲ろうとすると、規矩男は手を振って「今日は書物なんかにかかわり度くはないですよ」と止めた。

「だけどあなたは随分読書家なんでしょう」

「まあね」

規矩男はにやにや笑って、

「それだけに堪らなく嫌になって、幾日も密閉して、書物の面見るのも嫌になるんですよ。今はその時期です」

「人間にもそんなんじゃない」

「まあそんな傾向がないとは云えませんがね。しかし、人間に対しちゃ責任があるもの、いくら僕だってそんな露骨なことしやしません」

「だって一度恋人だったものがただの許嫁に戻ったりして……」

「あのことですか、だって僕は女性がまだあの頃判らなかったし、ただちょっと珍しかったからですよ」

「では、今は珍しくなくって、そして女性が判って来たとでもいうのですか」

「そんなこと云われると、僕はあれのこと打ち明けなければ好かったと思いますよ。あなたは偉いようでも女だなあ。