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ぼしじょじょう
母子叙情
岡本 かの子
「文学界」1937(昭和12)年3月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 77,355 字 · 153 页
あたりまえのようで不思議なのは、あなたも僕も同じ熱情的であり自我的でありながら、それが空虚の心境にまで進んでいたことです。しかし、違うところ――つまりプラスとマイナスの相違となったのは、あなたのは何処までも教養で得た虚無であり、僕のは自我と熱情で強引に押し進めて行った結果のコチコチの殻を背負った虚無なのです。
僕は仄かに力強いものをあなたに感じました。これ以上説明しにくいですが強いて云えば、あなたの空虚は――照らしているものの空虚――存在の意識を確めさせる空虚――夢中で弾ませる空虚――自然に在っては、微かな風に吹かれているときの花の茎に認められ――人間に在っては、一種の独断的な無心な状態に於けるとき湛えられている、あの何とも知れない無限で嫋やかな空虚――(後略)
かの女は自分を虚無の殻に押し込め乍ら、まだまだ其処から陽の目を見よう見ようといている規矩男の情熱の赤黒い蔓を感じる。そしてその蔓の尖は、上へ延びようとして却って下へ深く潜って行く……かの女は自分を潔くするためにそれを見殺しする自分の行為が、勝手がましくも感ぜられて悲しい。かの女は自分の娘時代の寂しくも熱苦しかった悶えを想い出した。