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ぼしじょじょう

母子叙情

岡本 かの子

「文学界」1937(昭和12)年3月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 77,355 字 · 153 页

青空文庫

かの女はそう云って仕舞って、ふっと涙ぐんだ。かの女が何と云い訳しようとも、道徳よりも義理よりも、そしてあんなにも哀切な規矩男への愛情よりも、もっと心の奥底から子を涜したくなかった母の本能、しかく潔癖に、しかく敏感に、しかく本能的にもより本能的なる母の本能――それには、「むす子に済まない」そんなまだるい一通りな詞が結局当て嵌るべくもないのに、今更かの女は気がついた。むす子の存在の仲介によって発展した事情に於て××××……それを母の本能が怒ったのだ、何物の汚涜も許さぬ母性の激怒が、かの女を規矩男から叱駆したのだ。

四五年の日月が経過した。

むす子の画業は着々進んでいるらしく、ラントランシジャンとかそう云った手堅い巴里新聞の学芸欄に、世界尖鋭画壇の有望画家の十指の一人にむす子の名前が報じられて来るようになって来た。むす子はその中でも最年少者で唯一の日本人であるだけに、特別の期待の眼を向けられている様子だった。

「まあ一郎が、まあ嘘みたいな話ね。でも有難いわ。やっぱり真面目にやって呉れたのね」

かの女には僥倖という気持と、当然という自信に充ちた気持とが縺れ合った。