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ぼしじょじょう
母子叙情
岡本 かの子
「文学界」1937(昭和12)年3月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 77,355 字 · 153 页
兄弟の中で、二人までこの道に躓いて生命を滅したものを持つかの女は、一家中でこの道に殉ずる最後唯一の人間と見なければならなかった。木の芽のような軟い心と、火のような激情の性質をもった超現実的な娘が、これほど大きくなったむす子を持つまでに、この世に成長したのは不思議である。そして、芸術という正体の掴み難いものに、娘時代同様、日夜、蚕が桑を食むように噛み入っている。
逸作には、人間の好みとか意志とかいうもの以上に、一族に流れている無形な逞しいものが、かの女を一族の最後の堡塁として、支えているとしか思えなかった。それは既に本能化したものである。盲目の偉大な力である。今や、はね散って、むす子の上に烽火を揚げている。逸作は実に心中讃嘆し度いような気持もあり乍ら、口ではふだんからかの女に「芸術餓鬼」などとあだ名をつけてからかって居る。
或る日勤め先から帰って来た逸作がかの女に云った。
「おいおい、この間巴里から帰って来た社(逸作の勤め先)の島村君が態々僕に云いに来たんだ。一郎君によく巴里で逢いました。実にしっかりやっておいでです。僕が何よりも嬉しく思ったのは、一郎君が僕は僕をこんなに暮させていて呉れるあんな親を持って仕合せです。