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ぼしじょじょう
母子叙情
岡本 かの子
「文学界」1937(昭和12)年3月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 77,355 字 · 153 页
「やあ、これは、参った」
けれども、かの女は冗談にされてはたまらないと思い、まじめな返事をした自分の不明を今更後悔する沈黙で、少し情ない気持を押えていると、さすがに老紳士は気附いて、
「なる程な。そこまで伺えば、よく判りますて」
といって、下手から、かの女の気持のバランスを取り直すようにした。かの女は少し気の毒になって、ちょっと頭を下げた。
すると、老紳士は、そのまま真面目な気分の方へ誘い込まれて行って、視線を内部へ向けながら、独言のようにいった。
「大乗哲学の極意は全くそこにあるんでしょうなあ。ふーむ。だが、そこまで行くのがなかなか大変だぞ」
そしてそのことと自分のむす子とが、何かの関係でもあるかのように、むす子のこけた肩を見た。むす子は青年にしては、あまりに行儀正しい腰掛け方をしていた。――かの女はこの時、このむす子がずっと前、母親を失っているのを何かの雑誌で見ていたことが思い出された。
老紳士は深刻な顔つきで、アイスクリームの匙を口へ運んでいたが、たちまち、本来の物馴れた無造作な調子に返った。
「一たい、おくさんのような、華やかなそして詩人肌の方が、また間違ってるかも知れんが、まあ、兎に角、どうして哲学なんかに縁がおありでしたな」