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ぼしじょじょう

母子叙情

岡本 かの子

「文学界」1937(昭和12)年3月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 77,355 字 · 153 页

青空文庫

「香ばしくておいしい。掻餅のようね」とかの女はいった。

むす子はかの女の喰べ方を監督しながら自分も喰べていった。

「パパ、今晩は、トレ・コンタンでしょう。支那めしが喰べられて」

「久し振りに日本の方と会って大いに談じてますよ」

「パパもいいが独逸の話だけはして呉れないといいなあ、ベルリンのことを平気でペルリン、ペルリンというんだもの、傍で気がさしちまう」

「おなかじゃベルリンと承知してて、あれ口先だけの癖よ」

母子は逸作への愛に盛り上って愉快に笑った。

かの女とむす子は静かに食事を進まして行った。外国の食事の習慣に慣らされて、食事中は込み入った話をしない癖がついている二人は、滑かにあっさり話を交した。

かの女は最初巴里につき、それから主人の用務でイギリスへしばらく滞在するため巴里を出立するとき、むす子に言葉を慣らすため一人で残して置いたのであるが、かの女はむす子の慰めになるかも知れないと、上海の船つきで買い入れたカナリヤの鳥籠をもむす子に残していった。むす子はそのカナリヤの餌を貰うのに寄宿の家のものに何といったらいいのか困り果てたという話は、かの女がむす子から度々聞いた経験談だが、観察の角度を代えていままた話されると、相変らず面白かった。