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ぼしじょじょう

母子叙情

岡本 かの子

「文学界」1937(昭和12)年3月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 77,355 字 · 153 页

青空文庫

一ぺんだけ返事を出してよく云って聞かしてやりましょうか」

縺れ出しては切りのないかの女の性質を知っている逸作は言下に云った。

「考えものだな。君は自分のむす子に向ける感情だけでも沢山だ。けどこないだの晩は君の方から働きかけたんだから逢ってやっても好いわけさね」

彼女は結局どうしようもなかった。こだわったまま妙な方面へ忿懣を飛ばした。――少くともかかる葛藤を母に惹起させる愛憐至苦のむす子が恨めて仕方がなかった。何も知らずに巴里の朝に穏かに顔を洗っているであろうむす子が口惜しく、いじらしく、恨めしくて仕方なかった。

半月ばかりたった。かの女はあまり青年の手紙が跡絶えたので、もうあれが最後だったのかと思って、時々取り返しのつかぬ愛惜を感じ、その自分がまた卑怯至極に思われて、ますます自己嫌悪におちいっているところへ、ひょっこりとまた手紙が来た。

「僕だけでお目にかかれないとなれば、僕の母にも逢ってやって下さい。僕等は親子二人であなたから教えて頂き度いことがあるんです。頼みます」

この手紙には今までと違って、何か別に撃たれるところのものがあった。それに遠く行き去った愛惜物が突然また再現したような喜悦に似た感情が、今度は今迄のすべての気持を反撥し、極々単純に、直ぐにも逢う約束をかの女にさせようとした。