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ぼしじょじょう
母子叙情
岡本 かの子
「文学界」1937(昭和12)年3月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 77,355 字 · 153 页
僕はあれを覚えてていざとなったら母もだしにつかいかねなかった……」
「そんなに私に逢わなけりゃならなかったの」
「嫌だ。そんなこと、そんなにくどく云っちゃ」
規矩男がますます赫くなるので、かの女はもっとくどくからかい度くなった。
「かりによ。あの時、ではお母さんとご一緒にお出下さい、是非お母さんと……と、私がどうしてもお母さんと一緒でなければお逢いしないと云って上げたらどう?」
「事態がそうなら僕は母と一緒に伺ったかも知れないな」
「そして子供の教育法をお母さんに訊かれるとしたら、規矩男さんの教育係みたいに私はなったのね」
「わははははあ」規矩男は世にも腕白者らしく笑った。
「それも面白かったなあ、わははははあ」
「何ですよ、この人は……そんな大声で笑って」
規矩男は今度は大真面目になって、
「だけど運命の趨勢はそうはさせませんね。僕は世の中は大たい妥当に出来上っていると思うんです」
「では妥当であなたと私とはこんなに仲好しになったの」
「そうですとも。僕だってあなただから近づいて来たかったんです……誰が……誰が……あなたでない、よそのお母さんみたいな人に銀座でなんかあとからつけて来られて……およそ気味の悪いばかりだったでしょうよ。