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ぼしじょじょう

母子叙情

岡本 かの子

「文学界」1937(昭和12)年3月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 77,355 字 · 153 页

青空文庫

「なるほど、靴木履。うまい名前をつけましたね」

台は普通の女用の木履爪先に丸味をつけて、台や鼻緒と同じ色のフェルトの爪覆いを着せ、底は全部靴形で踏み立つのである。「この履きものおかしいですか。人からじろじろ見られて、とても恥しいことがあるのよ」

「いえ、そんなことありません。だが、あなたは必要上から何事でも率直にやられるようですね、そのことが普通の世間人にずいぶん誤解され勝ちなんでしょう」

かの女は、それは当っていると思った。しかし、真面目に規矩男の洞察に今更感謝する気にもなれなかった。かの女は誤解されても便利の方がいいと思うほど数々受けた誤解から、今や性根を据えさせられていた。かの女は、同情の声にはただ意志を潜めて、ふふふと小さく笑うだけだった。

「オリジナリティがあって立派なものですよ。威張って穿いてお歩きなさいよ。春の郊外の若草の上を踏むのなんかには、とりわけ好いな」

規矩男は一寸考えてまた云い続けた。「そういうオリジナリティが僕の母なんかにはまるでない」

「なまじいオリジナリティなんかあるのは自分ながら邪魔ですよ」

「そうだ。あなたはご自分の天分でもなんでも、一応は否定して見る癖があるんだな……癖か性質かな。