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ぼしじょじょう

母子叙情

岡本 かの子

「文学界」1937(昭和12)年3月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 77,355 字 · 153 页

青空文庫

と云っても規矩男はその事とばかり思い込んで、彼の許嫁に就いて語り出した。

「つまり僕のあれは――始めは親達が決めて、あとで恋人同志のような気持になり、今はまた恋がなくなって(僕の方だけで)普通の許嫁と思ってるんですけれど――その女はオリジナリティも熱情もないくせに、内気な所も皆目なくって、その上熱情がある振りをしたがるという風な女です。唯取柄なのは、家庭や団体なんかが牛耳れそうな精力的なところなんですが……僕あそんなもの欲しくないんです」

「そうお。だけど誰のどんな取柄だって、よく見てれば好いものでしょう」

「でも、そう云ってたらきりもありません。人間の好きも嫌いもなくなっちまう」

「まあそれはそうだけど」

往還のアスファルトに響いて多摩川通いのバスが揺れながら来た。かの女等はそれを避けて畑道へそれた。畑地には、ここらから搬出する晩春初夏の菜果が充ちていた。都会人のまちまちな嗜好を反映するように、これ等の畑地のなりものや野菜は一定していなかった。茄子畑があると思えば、すぐ隣に豌豆の畑があった。西洋種の瓜の膚が緑葉の鱗の間から赤剥けになって覗いていた。畦の玉蜀黍の一列で小さく仕切られている畑地畑地からは甘い糖性の匂いがして、前菜の卓のように蔬菜を盛り蒐めている。