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どくガスはつめいかん

毒瓦斯発明官

海野 十三

――金博士シリーズ・5――

N1 · 挑战 · 新字新假名 · 9,511 字 · 20 页

青空文庫

金博士は、このごろアルコールに不自由をしている上に、金にも困っていると見え、さてこそ極限歎息の次第と相成ったらしい。

丁度そのときであった。金博士の頭を目がけて、一匹の近海蟹のようによく肥えた大蜘蛛が、長い糸をひいてするすると下りてきた。そして、もうすこしで、金博士のヘルメットにぶつかりそうになって、ようよう下るのを停めた。おそるべき大蜘蛛だ。こんなやつに頸のあたりを喰いつかれ、生血をちゅっちゅっ吸われたら、いかな頑固爺の金博士であろうと、ひとたまりもなかろうと思われた。

「もしもし金博士、おなつかしゅうございますなあ」

とつぜん、その大蜘蛛が金博士に言葉をかけたのだった。冗談じゃない……。

「うん」

博士の鼓膜に、その声が入ったのか、博士は生返事をした。生返事をしただけで、彼はなおも飾窓の青いペパミントの値段札に全身の注意力を集めている。

「博士は、いつに変らず御壮健で、おめでとうございます。この前、金博士にお別れをしてから、もうかれこれ五六年になりますなあ」

その化け物のような大蜘蛛は、しきりに金博士をなつかしむのだった。これを横から眺めていると、博士も亦、蜘蛛の化け物じゃないかという疑いが湧いてくる。