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ひかくかがくろん
比較科学論
中谷 宇吉郎
「寺田寅彦――比較科学論」新潮社、1959(昭和34)年4月25日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,520 字 · 19 页
それを音として再生すると、波形によって、それぞれちがった音色の雑音として聞えるだろうという見込である。各種の波形について、音色が皆ちがえば、波全体として、われわれの感覚に触れるわけである。この実験は遂になされなかったが、まことに面白い着想である。
先生は、哲学方面の造詣も深く、その未完の名著『物理学序説』では、物理学の本質について、深奥な考察をされている。これを読むと、寺田物理学には、やはり強い哲学的な背景のあったことがよく分る。そういう哲学的な考察などは、修飾にはなるが、実際の物理学の研究には、不必要であるという考え方が、一部の科学者の間には、広く行き渡っているようである。しかし透徹した眼で、深く科学の本質を見極めた哲学的な思索が、やはり人間の思索の一つの現われである物理学に、役に立たないはずがない。その良い例を一つ、この『物理学序説』から引用してみよう。それには、まずこれが書かれた時代を説明しておく必要がある。
この本は未完であって、先生の死後、その草稿が見つかったのである。草稿を書かれたのは、一九二〇年から二五年くらいまでの間と推定されている。