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みずとほね
水と骨
佐藤 垢石
「釣趣戯書」三省堂、1942(昭和17)年
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 5,477 字 · 11 页
一
人は常識的には、太平洋へ注ぐ表日本の川の水温よりも、日本海へ注ぐ裏日本の川の水温方が低いであろうと、考えるにちがいない。
ところが、実際は日本海へ注ぐ川の方が平均高い水温を持っているらしい。このことは理学的にも統計的にも、何か責任の上に立って調べたわけではないから必ずそうであるとは断定できないが、私が多年、各地の川を釣り歩いてみて、裏日本の川の方が早く水が温み、そして盛夏の候には表日本の川より水温が高くなることを経験したのである。
水温と釣りには、切っても切れない縁のあるのは誰でも経験している。疑うというわけではないが、川の性質を知ってその川特性の水温を頭に入れながら釣りすることは、また楽しみのあるものである。
たとえば、手近の例が上越国境即ち白根火山の北方、信濃の渋峠を地点として東方へ走り岩代、上野、下野の三国境付近の尾瀬沼の東でつきる山脈の裏表は完全に、日本海へ注ぐ川と太平洋へ注ぐ川との分水嶺をなしている。この山脈の中央に他を圧して聳立する大刀根岳の雪渓の滴りを源とする利根川と、やはりこの山脈中の名山、谷川岳の北裏を源とする越後の魚野川の水温を比較すると、川が暖かい陽当たりに向いて流れるにも拘わらず、利根川の方が水温が低い。