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みずのおんな

水の女

折口 信夫

「民族 第二巻第六号」1927(昭和2年)年9月、「民族 第三巻第二号」1928(昭和3年)年1月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,525 字 · 38 页

青空文庫

一〇 ふぢはらを名とする聖職

「御湯殿の上の日記」は、その書き続がれた年代の長さだけでも、為事の大事であったことがわかる。元は、御湯殿における神事を日録したものらしい。宮廷の主上の日常御起居において、もっとも神聖な時間は、湯を奉る際である。この時の神ながらの言行は記し留めねばならない。こうしてはじまった日記が、聖躬の健康などに関しても書くようになり、はては雑事までも留めるに到ったものらしい。由緒知らぬが棄てられぬ行事として長い時代を経たのである。御湯殿の神秘は、古い昔に過ぎ去った。髪やかづらを重く見る時代が来て、御櫛笥殿の方に移り、そこに奉仕する貴女の待遇が重くなっていった。

一〇 ふぢはらを名とする聖職

この沐浴の聖職に与るのは、平安前には「中臣女」の為事となった期間があったらしい。宮廷に占め得た藤原氏の権勢も、その氏女なる藤原女の天の羽衣に触れる機会が多くなったからである。

わが岡のに言ひて降らせたる、雪のくだけし、そこに散りけむ(万葉巻二)

天武の夫人、藤原ノ大刀自は、飛鳥の岡の上の大原に居て、天皇に酬いている。この歌のごときは「降らまくは後」とのからかいに対する答えと軽く見られている。