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みずのおんな

水の女

折口 信夫

「民族 第二巻第六号」1927(昭和2年)年9月、「民族 第三巻第二号」1928(昭和3年)年1月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,525 字 · 38 页

青空文庫

柳田先生の言われたように、卯月八日前後の花祭りは、実は村の女の山入り日であった。おそらくは古代は、山ごもりして、聖なる資格を得るための成女戒をうけたらしい日である。田の作物を中心とする時代になって、村の神女の一番大切な職分は、五月の田植えにあるとするに到った。それで、田植えのための山入りのような形をとった。これで今年の早処女となる神女が定まる。男もおおかた同じころから物忌み生活に入る。成年戒を今年授かろうとする者どもはもとより、受戒者もおなじく禁欲生活を長く経なければならぬ。霖雨の候の謹身であるから「ながめ忌み」とも「雨づゝみ」とも言うた。後には、いつでもふり続く雨天の籠居を言うようになった。

このながめいみに入った標は、宮廷貴族の家長の行うたみづのをひもや、天の羽衣ようの物をつけることであった。後代には、常もとりかくようになったが、これは田植えのはじまるまでのことで、いよいよ早苗をとり出すようになると、この物忌みのひもは解き去られて、完全に、神としてのふるまいが許される。それまでの長雨忌みの間を「馬にこそ、ふもだしかくれ」と歌われた繋・絆(すべて、ふもだし)の役目をするのが、ひもであった。