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みずがめ
水甕
豊島 与志雄
――近代説話――
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,082 字 · 26 页
仁木は黙って酒を飲みました。彼のそばについてる芸者が、杯があけばすぐに酒をつぎました。それが後ではうるさくなり、少し待てよと言っても、彼女はまるで機械のように、杯があけばすぐにつぎました。それを江川がまたけしかけました。
「仁木君の酒は会社でも有名だ。おい、しっかりお酌をしろよ。」
「大丈夫よ。こちらのお杯、からになったら、あたし、罰金だすわ。」
言葉通り、彼女は決して仁木の杯をからのままにはしておきませんでした。
仁木はぼんやり彼女を眺めました。お酌するより外に能がなさそうな、そしてお酌するためにだけそこにいるような、その女から、彼は一種の圧迫を感じはじめました。しかも彼女自身は、ただの平凡な若い芸者にすぎませんでした。二重瞼の、殆んど近くを見ずただ遠くだけを見るような、その眼差しが凉しいきりで、他に取りえもなく、笑う時には、大きな口のまわりに、年増めいた二筋の皺がより、坐っておれば普通の体躯に見えますが、立ち上ると、ひどく背の低いのが目立ちました。こんな者、気にすることはないと、仁木は思って、床の間の花などを眺めました。青磁の花瓶に、梅もどきへ菊をそえて活けてありました。