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みずがめ

水甕

豊島 与志雄

――近代説話――

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,082 字 · 26 页

青空文庫

そこへ、大衆の呆けたような憂欝が反映してきて、彼の自由な心境を曇らせました。そのことに彼は内心で反抗しながら、ますます無口になり憂欝になってゆきました。俺はどんなことを仕出来すか分らないという危惧が、胸の奥に湧いてきました。もしも乱暴な爆発が起るとすれば、それは、平井や江川が気遣ったのとは別種なものとなったでしょう。

暑い夏の日々が続きました。仁木は雷雨と雷鳴を待ちこがれましたが、それらしいものは一向に来ず、強い日差しに、焼け跡の菜園の作物は萎れがちでした。

その暑い中を、仁木は黙々として会社へ通い、黙々として事務を執りました。組合運動には何の熱意も示しませんでしたが、現場の工員たちからは信頼の眼で見られていました。雑貨の小さな店舗を出してる兄の商売を、彼は好まず、そちらへは殆んど顔を出しませんでした。けれど、復員者仲間の一人が闇商売をやっているのへは、好意を見せて、会社関係からいろいろ便宜をはかってやりました。そして彼の許へもいろいろ物資がはいってきました。それを、平井夫婦や富子はたいへん喜びました。然し彼は、お世辞を言われてもただむっつりしていました。