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みずごもり
水籠
伊藤 左千夫
「ホトヽギス 第十一卷第二號」1907(明治40)年11月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 4,600 字 · 10 页
夜になれば蚊がいる。この四畳のお座敷へ蚊帳二つりという次第ではないか。動けないだけに仕事もない。着たままでねる、寝たままで起きている。食物は兄の家からすべてを届けてくれる。子供を水へ落とさないように注意するのが最も重要な事件くらいのものじゃ。赤ん坊は心配はないが木綿子のおぼつかなく立って歩くのが秒時も目を離せない。今日は木綿子がよく寝たから天井板をきれいに掃除したとは細君のことばである。今日は腰巻きを五へん換えましたとは下女の愚痴である。それもそのはずじゃ。湯を沸かして茶を一つ飲もうというには、火をこしらえる材料拾集のために担当者が腰巻き一つはどうしてもぬらさねばならない。それが三度はきまりでほかに一度や二度は水へ降りねばならぬ。で天気がよければよいが天気が悪ければ、とても茶を飲むなどいう奢りは許されない。今日くらいの天気ならばラクだとは異口同音のよろこびじゃ。追ッつけ夕飯を届けてくる時刻とて鉄瓶の湯が快活に沸き立っている。予は同人諸君からの見舞状を次ぎ次ぎと見る。かれこれして家の中は薄暗くなった。
「おとっさん水が少し引いたよ」
「ウンそうか」
「あの垣根の竹が今朝はまだ出なかったの……それが今はあんなに出てしまって五分ばかり下が透いたから、なんでも一寸五分くらいは引いたよ」