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みずごもり
水籠
伊藤 左千夫
「ホトヽギス 第十一卷第二號」1907(明治40)年11月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 4,600 字 · 10 页
いやに熱苦しい南風が一日吹き通して、あまり心持ちのよい日ではなかったけれど、数日来雨は降る水は増すという、たまらぬ不快な籠居をやってきたのだから、今日はただもうぬれた着物を脱いだような気分であった。それに日の入りと共にいやな南風も西へ回って空の色がよくなった。明日も快晴であろうと思われる空の気色にいよいよ落ちついて熱のさめたあとのような心持ちでからだが軽くなったような気がする。金魚が軒下へ行列して来る。鰌が時々プクプク浮いて泡を吹く。鰻まで出て芝居をやって見せたというありさまだったから、まずまずこれまでにはない愉快な日であった。極端に自由を奪われた境涯にいて見ると、らちもない事にも深き興味を感ずるものである。
人間の家も飯を炊かぬものであると、朝にも晩にもすこぶる気楽にゆっくりしたものだ。
「もうランプをつけましょうか」
「まだよかろう」
「それでもよほど暗くなってきましたから」
「どうせ何ができるでなし、そんなに早く明かしをつける必要もないじゃないか」
こんならちもない押し問答をして時間を送っている。
表のガラス戸にがちゃんと突き当たったものがある。何かと思う間もなくしずしずとガラス戸を押しあけて人がはいる、バシャンバシャン水音をさして半四郎君が台所へ顔を出した。