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みずとりてい

水鳥亭

坂口 安吾

「別冊文藝春秋 第一五号」1950(昭和25)年3月5日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 30,705 字 · 62 页

青空文庫

一匹のイワシ

一匹のイワシ

日曜の夜になると、梅村亮作の女房信子はさッさとフトンをかぶって、ねてしもう。娘の克子もそれにならって、フトンをひっかぶって、ねるのであった。

九時半か十時ごろ、

「梅村さん。起きてますか」

裏口から、こう声がかかる。

火のない火鉢にかがみこんで、タバコの屑をさがしだしてキセルにつめて吸っていた亮作は、その声に活気づいて立ち上る。

いそいそと裏戸をあけて、

「ヤア、おかえりですか。さア、どうぞ、おあがり下さい」

声もうわずり、ふるえをおびている。

野口は亮作の喜ぶさまを見るだけで満足らしく、インギンな物腰の中に社長らしい落付きがこもってくる。彼は包みをといて、

「ハイ。タマゴ。それから、今朝はイワシが大漁でしてね」

タマゴ三個と十匹足らずのイワシの紙包みをとりだしてくれる。

「これはウチの畑の大根とニンジン」

それらの品々は亮作の目には宝石に見まごうほどの品々であった。彼は茫然とうけとっているのである。その目には、涙が流れさえするのであった。

「もう、みなさんは、おやすみですか」

「いえ、かまいませんよ。どうぞ、あがって下さい」

「いま伊東からの帰り路ですよ。