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みずとりてい
水鳥亭
「別冊文藝春秋 第一五号」1950(昭和25)年3月5日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 30,705 字 · 62 页
本と鶏小屋
たかが一匹のイワシをたべるにも高尚な理窟がいるんですか。私は理窟ぬきに棺桶屋を軽蔑したいもんですよ。たかが一匹で意地汚いとは、おお、イヤだこと。意地汚いのは、あなたですよ。一匹のイワシを娘に食べさせるのも惜しいんですね。この御飯は、克子のために、田舎の大伯母さまが届けて下さるお米ですよ。あなたは、それを食べているではありませんか」
亮作は無言であった。克子は勝ち誇るために泣いているが、彼は泣くこともできない。
彼も立上って出勤の支度をはじめる。彼はイワシを投げすてた克子のように、お弁当の御飯を投げすてることはできない。
戦争に負けるか勝つかということも、この苦しみから遁れられるか遁れられないかということよりは重大に見えないのである。
本と鶏小屋
亮作は皇軍勝利確信派であったが、信子と克子は敗北確信派であった。
サイパン戦況不利の報に、母と子はいち早く荷物の疎開をはじめた。
信子が着古した衣類をせっせと荷造りしているのを見て、克子が言う。
「そんなもの、持ってって、どうするのよ」
「これだって、まだ着れますよ。あなたのためにもさ。いずれ役に立ちますよ」
「私、そんなもの、着やしない」