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みずとりてい
水鳥亭
「別冊文藝春秋 第一五号」1950(昭和25)年3月5日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 30,705 字 · 62 页
娘は目を白くして、舌打ちした。
「衣裳道楽の大伯母さまが、一生かかっておあつめになった美術品のような衣類を、そっくり私に下さるというのに。そんなもの、女中だって着やしない」
「モッタイないことを言うんじゃありませんよ。これはみんな私がお嫁入りのとき、持ってきた物なのよ。それをアレコレ工夫して、一生着こなしたんですから、なつかしいのよ。あなたのお父さんに着物を買っていただいたことなんて、一度もありません」
娘は母の感傷などに一顧を与えた様子もなかった。しかし父への軽蔑は新にしたようであった。
「それ、ほんと。お嫁入りして今までに?」
「ほんとですとも」
「ほんとかしら。お嫁入りして今までッて云えば、私の年よりも多いわけだわね」
「あたりまえよ」
「フウン。グズだわね」
母の無言は同意をあらわしているのである。
戦時の夜は静かであった。二人の会話はグズの耳に筒ぬけにきこえた。
亮作は検定試験をうけて、中等教員になろうと思っていた。小学校の教員になると、ただちに受験準備をはじめたのである。彼の乏しい給料は概ねそのために費された。歴史と地理を志し、後に国漢も受けたが、何度やってもダメであった。