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みずとりてい
水鳥亭
「別冊文藝春秋 第一五号」1950(昭和25)年3月5日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 30,705 字 · 62 页
これを高く見積って、全部でせいぜい千円です。食べきらぬうちに敵が上陸すれば、これも丸損になります。そこを半々にみて、五百円がいい値でしょうな」
「あなた、また、五百円に下ったんですか!」
「ええ、そうなります。それでも高い」
「まだ下るんですか!」
「ええ」
「いくらに!」
「明日、敵が改めてくるかも知れない。今夜かも知れない。いえ、もう、大島辺に敵の艦影が見えて、今に空襲警報がなるかも知れない」
「なるほど。すると?」
「タダです」
「タダなら貰って下さるんですか。イヤ、まったく光栄です。あいにく、そのときは私が鶏と野菜をたべなければなりませんから、さしあげるわけにはいきません」
「私、千円で買ってさしあげましょう」
「ハハア。買ってさしあげて下さいますか。千円でねえ」
「ええ。買ったトタンに敵の上陸作戦がはじまっても、私の不運とあきらめます。あきらめては、いけないのです。あきらめては、この戦争に勝てません。鶏小屋の家賃にしてはすこし高いと思いますが、長らくお世話になったお礼として当然だと思って、あきらめるのです」
「なるほど。たいへん勉強になりました。色々の計算法があるものですなア。