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みずとりてい

水鳥亭

坂口 安吾

「別冊文藝春秋 第一五号」1950(昭和25)年3月5日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 30,705 字 · 62 页

青空文庫

だまされ、ぬすまれるような淋しさがあった。

だが、それにしても、家と田畑と源泉を所有することが、悪かろうとは思われない。自分がそんな身分になろうなどとは、考えられないほどだった。天にも昇る期待がこみあげる。すばらしい人生。すばらしい戦争。

彼はクシャクシャ泣きそうな顔に、にえきらない笑いをうかべて、

「じゃア、二千円で買いましょう」

「何を仰有るのです。私だって疎開を急がなければ、こんな捨値で売りやしませんよ。今どき、五千円ポッチで何が買えますか。あなたのように、家も土地も所有したことのない方に、こんな話をしたのがマチガイでした。私も長い辛酸のあげくに、ようやく念願を果したこの別荘です。ハシタ金で、ボートクを加えるほどなら、火をかけて燃した方がマシですとも」

「ボートクじゃないのです。私はお金がないのです」

「じゃア、およしなさい。お金がなければ、話になりません」

「じゃア、三千円で手をうちましょう」

「誰が手をうつのですか」

「私はそれしかお金がないのです」

「ですから、お金がなければ、お止しなさい」

「あなたは卑怯です」

「なぜ」

「私のような鶏小屋の住人に売買の話をもちだす以上、私のもてる限度に於て取引に応じて下さるのが当然でしょう」