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みずとりてい

水鳥亭

坂口 安吾

「別冊文藝春秋 第一五号」1950(昭和25)年3月5日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 30,705 字 · 62 页

青空文庫

彼は憤りを覚えた。

「私の毛布、一枚わけてやる。それで、たくさんだ」

「冬にこまる。いま、買っておけ」

「フトン背負って、戦場を逃げて廻れるものか」

「オレが背負ってやる。カヤも買え」

「カヤはいらん。今に穴ボコの中で暮すようになるのだ。穴の中にカヤはつられん」

「つれる。つれる穴をつくってやる。鍋と釜を買え」

「私が持っとる」

「小さい」

「小さくない。四人で充分にくえる」

「くえん」

「お前バカだな。あの釜は一升たける」

「三升たかねばならん」

「お前、一食に一升くえるか」

「オレは一日に五へん食う」

亮作は二の句がつげない。金時は彼をあわれむようにジッと見つめていたが、さとすように言った。

「みんな買っておけ。今が安いぞ。オレが安く買ってきてやる。持ってる金、みんな、だせ」

「どうするのだ」

「金のあるだけ品物を買う」

「バカだな。一文なしで、くらせるか」

「心配するな。オレにまかしておけ」

「電燈屋がきたら、どうする」

「畑の物を売って払ってやる。お前は心配するな」

「そうか。本当に大丈夫か」

「大丈夫だ」

「そんなに買いこんで、戦争のとき、持って逃げられるか」

「オレにまかしておけ」

亮作は金時の言葉にたのもしいものを読みとったので、包みをといて、虎の子をだした。