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みずとりてい

水鳥亭

坂口 安吾

「別冊文藝春秋 第一五号」1950(昭和25)年3月5日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 30,705 字 · 62 页

青空文庫

二千余円残っている。

そろって、買物にでた。

金時はまず大八車を買った。それは長年月納屋の奥に置きすてられた廃品で、峠越えの疎開用には役立たないシロモノであった。金時はかねて目をつけていたのである。修繕すればまだ使えると亮作に教えた。疎開騒ぎで値のでているのは大八車が筆頭だったが、これは法外に安かった。それでも、大八車が結局最高値の買い物であった。買った品々は車いっぱいになってしまった。

「お前、酒すきか」

「うむ。酒が買えるのか」

「オレが造ってやる」

金時は徳利と杯を買い、瓶を二つ買った。亮作は、なんともいえない有難さがこみあげた。天に向って感謝したい思いであった。

「お前も酒すきか」

「オレはのまん。オレは腹いっぱい食うのが好きだ」

最後に魚釣りの道具一式買った。

「畑はオレが一人でする。お前は用がないから、退屈したら、魚釣っとれ」

「そうか。釣れるか」

「釣れるだろう。イヤなら、やめれ」

「やってみる」

やがて、終戦がきた。

亮作はこのような幸福を夢にも描いていなかった。彼は大八車いっぱいの荷物と金時と共に穴ボコの中に生き残り、廃墟へもどって、いち早く耕作して、生活の安定をはかることを希望していた。