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みずとりてい
水鳥亭
「別冊文藝春秋 第一五号」1950(昭和25)年3月5日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 30,705 字 · 62 页
彼の落ちついた足の律動を乱させたのは、主として「水鳥亭山月」という表札であったのである。亮作も、それに気がついた。
「水鳥亭山月……」
オヤジの姿が遠くに消え果ててから、亮作はふと呟いた。
オヤジの認めたのは水鳥亭山月の表札だけで、彼自身の存在ではなかったという事実がしみじみよみがえってきた。それが甚だ当然のような気がしたのである。
「この表札は、オレのではない」
水鳥亭山月の表札をおろそうと思った。けれども、門前へまわって表札を見ると、いたましくて、とても取り去ることができなかった。いくどか思い直したが、また、ためらって、どうしても外せなかった。
翌朝、表札を外す代りに、彼自身が鶏小屋の横手で首をくくって死んでいる姿が発見された。