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ひょうが
氷河
黒島 伝治
1928(昭和3)年11月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 20,824 字 · 42 页
それからD、E、F……。
ゼットが来なければ、彼等は完全にいのちを拾ったとは云えないのだ。
衛兵にまもられた橇が黒龍江を横切って静かに対岸の林へ辷って行く。それが丘の上の病院の眼に映った。黒龍江は氷の丘陵をきずいていた。
橇は、向うの林の方へ、二三枚の木葉舟のように小さく、遠くなって行った。列車の顛覆と同時に、弾丸の餌食になった兵士が運ばれて行ったのだ。
観音経をやりながら、ちょい/\頓狂に笑う伍長をのけると、みんな憂鬱にベッドから頭を上げなかった。
「まだ、俺等は運がよかったか!」
栗本は考えた。ベッドには、一人の患者がいなくなると、また別の傷病者がそのあとへやって来る。それがいなくなると、又次の者がやってくる。藁蒲団も毛布も幾人かの血や膿や汗で汚されていた。彼は、それをかむって、ひそかに自分を慰めた。
負傷者は、死ぬまで不自由と苦痛を持ってまわらなければならない、不具者だ。
彼等は、おかみから、もとの通りの生きている手や足や耳を弁償して貰いたかった。一度切り取られた脚は、それを生れたまゝのもとの通りにつけ直すことは出来ない。それは相談にかゝらない。