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ひょうが
氷河
黒島 伝治
1928(昭和3)年11月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 20,824 字 · 42 页
と、こんなことを、まるで熱病患者のように発作的に声に出して呟いていた。
彼はロシアの娘が自分をアメリカの兵卒と同じ階級としか考えず、同じようにしか持てなさないのが不満で仕様がなかった。同様にしか持てなさないのは、彼にとっては、階級を無視して、より下に扱っていることだ。娘をメリケン兵に横取りされる危惧もそこから起ってくる。
「何で、俺の肩章が分らんのだ! 何で俺のさげとる軍刀が分らんのだ!」
それが不思議だった。胸は鬱憤としていっぱいだった。
「もっと思うさまやってやればよかったんだ! やってやらなきゃならんのだった!」
彼は、頭蓋骨の真中へ注意をむけるような眼つきをして衝動的に繰りかえした。刀を振りまわしたのも、呶なりつけたのも、自分をメリケン兵よりもえらく見せるがためだった。彼には、そのやり方が、まだ足りなかったようで、遺憾に堪えないものがあった。
「俺は中尉だ、兵卒とは違うんだ! どうしてそれが露助に分らんのだろう! どうして分らんのだろう!」
が、彼は、軍隊の要領は心得ていたので、本当の自分の心持は、誰れにも喋らず、偽札に憤慨したという噂は、流れ拡がるにまかせて、知らん顔をしていた。